Atelier Bonryu

infrared photography

 

赤外線写真_研究室

  1. I. デジタル赤外線写真


1-1 赤外線

赤外線:赤外線も紫外線も、可視光に近い波長の電磁波ですから、身の回りにはこれら赤外線、紫外線も可視光と同様に満ちあふれています。普通、太陽の光に含まれている赤外線や紫外線が何かに当たって反射してきたものがカメラ等のセンサーによって感じられて記録されます。反射ではなく、赤外線や紫外線を自ら放射している被写体を直接写真に撮る機会は少ないと思われます。もし、私たちの眼が赤外線や紫外線を感じとることができるならば、このような「反射赤外線」や「反射紫外線」による像を見ることになりますから、普段可視光線で見ている世界とは違った世界が見えるはずです。現実には、眼で直接赤外線を感じることはできませんが、デジタルカメラを使えば赤外線を感じることができて赤外線写真を撮ることができます。これは、第1−3図に示すように、カメラのセンサーが感じることのできる光の波長範囲が人間の眼が感じる波長範囲よりずっと広いからです。このような感度の波長依存性は、細かい所はカメラによってかなり違いますから第1−3図は模式図と思ってください。 

光の波長:人間の眼は、400nm位(紫色の光)から700nm位(赤の光)までの波長を持つ電磁波を感じることができるので、このような電磁波のことを「可視光」と呼びます。可視光よりも少し波長が長い領域(約700nmから1mm = 1,000,000nm位まで)の電磁波を赤外線と呼び、逆に、少し波長の短い領域(400nm位から10nm位まで)の電磁波を紫外線と呼びます。可視光は見える光で、赤外線と紫外線は見えない光です。これらの光の境目は厳密に決まっているわけではなくて、たとえば、JISの規格Z8120では、波長が(360nm 〜 400nm)から(760nm 〜 830nm)の電磁波を可視光(可視光線、可視放射)と定めています(第1−2図)。実際、境界近くの色は人によって見える場合と見えない場合があります。


地球の生物の眼が可視光領域の電磁波を感じることができるのは、太陽からの電磁波(光)には可視光領域のものがもっとも多く含まれているためであると考えられています。ここでは、便宜的に、400 - 700 nmを可視光として話を進めます。

第1−2図 光の波長と色

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_1_link_0shapeimage_1_link_1shapeimage_1_link_2shapeimage_1_link_3shapeimage_1_link_4shapeimage_1_link_5shapeimage_1_link_6shapeimage_1_link_7shapeimage_1_link_8shapeimage_1_link_9

光と電磁波:光は「粒子」としても「波」としても振る舞いますが、写真撮影を考えるときには、「光は波である」と考えれば、その振る舞いを十分よく理解することができます。ところで、その「波」は、(水の波とか空気の波である音波とは違って)何もない空間を伝わる電気的・磁気的振動である「電磁波」です。この電磁波は、波長(波の山から山までの距離:第1−1図)あるいは振動数(振動数=光の速さ/波長)によって分類されて、その大きさの違いによって、いろいろな性質を持っています。「電波」、「光」、「X線」、「ガンマ線(放射線の一種)」はみんな電磁波の種類です。これらの電磁波について、最長波長が10,000 kmにも達する極超長波(電波の一種)と最も短い波長のガンマ線(波長は0.01 nm程度以下:1 nm <ナノメートル> = 0.000 000 001 m)について波長を比べると、1兆倍のさらに1億倍(10の20乗倍)も違います。この電磁波の中で、とくに、波長が10 nmから1,000,000 nm(=1 mm)の電磁波が光と呼ばれていています。また、以下に示すように、この光の領域も、波長の短い方から、紫外線、可視光、赤外線に分けられていて、私たちが普段眼にすることができるのは可視光と呼ばれる光だけです。

目に見えない光である赤外線を使って写真を撮ることは、アナログカメラの時代から行われていました。しかし、今世紀になってデジタルカメラの時代になると、赤外線写真撮影自体がとても簡単になったばかりでなく、赤外線写真に不可欠とも言える後処理(post-processing、レタッチ)もパソコンの発達や画像解析・処理プログラムの進歩に伴ってとても容易になってきました。ここでは、赤外線やセンサーなどの基礎知識、赤外線写真の撮り方、後処理の仕方など赤外線写真に関するいろいろな課題を考えていきます。

上に記したように、可視光は波長が400 nm程度から700 nmまでのほぼ2倍程度の波長範囲であるのに対して、紫外線は10 nmから400 nmまでの40倍程度、赤外線に至っては700 nmから1 mm (=1,000,000 nm)の 1,000 倍もの領域に渡っています。このため、紫外線及び赤外線はさらに細かく分かれていて、波長の短い方から順に、真空紫外線(10 - 200 nm)、近紫外線(200 -380 nm)、近赤外線(700 - 2,500 nm)、中赤外線(2,500 - 4,000 nm)、遠赤外線(4,000 - 1,000,000 nm)に分けられています。


ここで赤外線写真撮影の対象にしているのは近赤外線の中でも可視光に近い700 - 1000 nm 程度の領域です。よく誤解されるものに「赤外線サーモグラフィー」がありますが、これは中赤外線の波長領域を中心とした赤外線写真を撮る技術です。また、サーモグラフィーでは赤外線を放出している被写体が対象ですが、ここでの赤外線写真は太陽等からの赤外線を反射している被写体が対象です。ついでに、本ホームページで扱っている紫外線撮影の対象領域は近紫外線の中のUV-A(315 - 380 nm)と呼ばれる紫外線です。いずれも、可視光の領域のすぐ近くの光ですが、可視光写真では見られない興味深い画像を生成することができます。

第1−1図 波の波長

後で説明するように、アナログカメラの時代からデジタルカメラの時代になって、赤外線写真の撮影がぐっと簡単になりました。日本では赤外線写真の愛好者はまだあまり多くありませんが、欧米では、大勢の人がデジタル赤外線写真(Digital Infrared Photography)を楽しんでいるようです。デジタル赤外線写真の解説書も、英語のものならば、かなり出版されています。赤外線写真から受ける印象を、英語では、bizarre(怪奇な、一風変わった)、 weird(不気味な、異様な)、とかunearthly(神秘的な、すごい)等と表現することがよくあります。これは、赤外線は見えないので、もともと色がないために行う後処理の1方法として(場合によっては、不自然とも言える)色をつけているためということもありますが、それよりも、赤外線写真はほとんど気がつかないようなわずかな違いだけ現実の対象物から異なっているために、かえって、見る人を現実か非現実か判定しにくいあいまいな境界へと誘うためではないでしょうか。その感じは本サイトの展示室の写真を見ていただいてもわかると思います。

第1−3図 デジタル・カメラのセンサー(CCDとCMOSの例)と眼の感度の波長依存性の模式図。横軸は光の波長を表しています。CCDやCMOSに比べて、眼で見える光の波長範囲がとても狭いことがわかります。