Atelier Bonryu

infrared photography

 

赤外線写真_研究室

1-2 デジタル赤外線写真:DIP

デジタル赤外線写真(DIP:Digital Infrared Photography)人間の眼は赤外線や紫外線によって伝えられる情報を直接受けとることはできません。しかし、第1−3図をみればわかるように、現在使われているデジタルカメラのセンサー(CCDやCMOS等の感光素子)は、実は、可視光線の波長範囲を超えた広い波長範囲の光、すなわち、長い波長の光である赤外線や短い波長の光である紫外線までも感じることができます。特に赤外線に対しては広い波長範囲にわたって高い感度を持っています。ただし、普通の(可視光の)写真を撮るときにセンサーが赤外線を感じとってしまうと、これが写真の色に影響を与えて、見た目と違う写真が出来上がってしまうので、カメラのセンサーの直前には赤外線を遮断するフィルターを付けてセンサーまで到達する赤外線の量をなるべく少なくなるようにしてあるのが普通です。ただ、このフィルターが赤外線を100%遮断するわけではないので、赤外線専用のカメラでなくとも、「(赤外線は通すが)可視光を遮断するフィルター」(赤外線透過・可視光遮断フィルター)をレンズの前面に取り付けることによって赤外線写真を撮ることができます(第1−4図)。このような写真撮影は、言わば、カメラに内蔵されている赤外線遮断フィルターの「不完全さ」を頼りにして写真を撮るわけですからセンサーまで達する光量が少ないためにシャッター速度を遅くしなければならないのはやむを得ません。このため、三脚を使うことが必要になります。また、「一般的に言って、高価なカメラほど赤外線遮断性能はよくて、高級な一眼レフよりもコンパクトカメラの方が赤外線撮影には向いている場合が多い」と言われてきましたが、最近は必ずしもそうではないようです。

アナログ赤外線写真とデジタル赤外線写真:アナログカメラの時代から赤外線写真はありましたが、デジタルカメラの登場によって撮影が容易になったばかりでなく表現力も増してきて、欧米では、写真芸術の中にDigital Infrared Photography(DIP:デジタル赤外線写真)という一分野が形成されています。


アナログ赤外線写真とデジタル赤外線写真を比べると次のようなことが言えます。まず、第一に、赤外線写真を撮影する時にアナログカメラでは、普通、赤外線写真撮影用の専用フィルムを使うのに対して、デジタルカメラでは可視光写真を撮るのと同じセンサーを用いて撮影するということが上げられます。赤外線専用フィルムを使う理由は、通常の写真を撮影する為のフィルムの感光材は赤外線領域での感度が低いことが最大の理由です。そもそも、当初、フィルムの感度はごく短波長領域に限られていましたがパンクロマティックフィルムになって可視光全域が取れるようになり、赤外線フィルムでさらに長波長光が記録できるようになりました。赤外線フィルムに比べてCCD等のデジタルカメラのセンサーは、より波長の長い赤外線領域にまで感度が高いので、デジタルカメラは赤外線写真撮影に適していると言えます。また、フィルムの場合は一旦赤外線フィルムをカメラに入れたら短い時間内に赤外線写真ばかり撮影してフィルムを使いきらなければならないし、熱によって像が劣化しやすいということも考えておかなければなりません。また、カメラへの出し入れに際しても感光しないように特に注意することが必要であるとも言われます。デジタル写真の場合はそのような問題がないという利点があります。


次に、大切なことは、赤外線は人間の目で感じることができませんから、当然、「赤外線には色が無い」ということです。従って、カメラが感じ取った画像をどのように表現するかということが問題になります。これは、フィルムカメラでもディジタルカメラでも同じことです。モノクロ写真を考える限りは、大きな違いは無いと言えます。カラー写真を撮った場合には、表現される色は人工的に決めた色(False Color:偽色)にならざるを得ません。このことに関しても、フィルムカメラによる赤外線写真とディジタルカメラによる赤外線写真には大きな違いが出てきます。赤外線写真撮影用のカラーフィルム(リバーサル)は通常のフィルムと同様に3層に分かれて3色を発色します注釈1。そのうち1層が赤外線を感じて赤を発色、他の層が赤色光を受けて緑を発色、緑色光を受けて青を発色するようになっています。デジタルカメラの場合もR、G、Bの3つのチャンネルに画像の情報が与えられますが、これら3つのチャンネルにどの色を発色させるかは後処理の段階で自由に変えることができます。このための後処理はデジタルカメラとパーソナルコンピュータを使うことによって格段に容易に行えるだけでなく幅広い表現力を実現したことがあげられます。


このようなわけで、デジタル赤外線写真はフィルム赤外線写真に比べていっそう身近な写真技術となりました。

第1−4図 可視光遮断赤外線透過フィルターを付けた一眼レフカメラ Olympus E-510

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_1_link_0shapeimage_1_link_1shapeimage_1_link_2shapeimage_1_link_3shapeimage_1_link_4shapeimage_1_link_5shapeimage_1_link_6shapeimage_1_link_7shapeimage_1_link_8shapeimage_1_link_9

もっとも、本格的な赤外線写真を撮るならば、カメラのセンサーの前についている赤外線遮断フィルターを外してしまう方法がとられます(第2−4節で詳しく説明します)。このようにすれば、可視光を使った普通の写真同様に早いシャッター速度で写真が撮れます。なお、カメラのセンサーの前には、空間的に変化が激しい(高周波)模様を撮った時に生じるモアレパターンを防止する為に、しばしば、「ローパスフィルター」(低周波透過フィルター)を着けてあります。「赤外線遮断フィルター」はこのローパスフィルターと一体化してあることも多いので、ローパスフィルターが赤外線遮断フィルターであると誤解している人も居ますがこれらは全く別物です。敢えて言うならば、赤外線遮断フィルターは、時間的振動に対する「ハイパスフィルター」(高周波透過フィルター)であるということができます。