Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線写真_研究室

2-4 カメラの改造

光の波長とセンサーの感度:ここまでに述べてきたように、デジタルカメラのセンサーは、私たちの眼が感じる事ができる可視光だけでなく、より長波長の光(赤外線)やより短波長の光(紫外線)を感じることができます。しかし、可視光の写真を撮影するときにこれらの光をセンサーが感じてしまうと、カメラが見る被写体と人間の眼が見る被写体とが違って見えるという事がおこります。これを避けるために、カメラのセンサーの前には赤外線を遮断するフィルターがついているのが普通です。ところが、この赤外線遮断フィルターは100 % 赤外線を遮断してしまう訳ではないので「可視光さえ遮断すれば赤外線遮断フィルターをすり抜けてくるわずかな赤外線で赤外線写真が撮れる」のです。このことを使って赤外線写真撮影をするというのがここまでに書いてきた方法です。しかし、なにぶん赤外線遮断フィルターをすり抜けてくる弱い赤外線を捕まえて赤外線写真を撮る訳ですから、長時間露出が必要になる事が泣き所です。前ページに記したように、カメラによっては、可視光写真の撮影時に比べて露出時間は数百倍から一万倍にもなってしまいます。


この問題を解決するには二つの方法が考えられます。いずれも、センサーについている赤外線遮断フィルターを外して別のフィルターに付け替えることによって実現します。一つは、赤外線遮断フィルターを取り除いたところに「可視光遮断赤外線透過フィルター」をつける方法です。このようにすれば、赤外線写真撮影専用カメラができあがります。もう一つは、この部分に「無色透明なガラスフィルター」をつけておいて「可視光遮断赤外線透過フィルター」はカメラのレンズの前に取り付ける方法です。このようなカメラをフルスペクトル(full spectrum)カメラと呼びます。「フルスペクトル」と呼ぶ理由は、センサーの感じ得る全波長領域(full spectrum)にわたって感度があるからです。この波長範囲はセンサーの種類によって異なりますが、普通、近紫外線から可視光、近赤外線の短波長部分までの領域にわたっています。光の波長にすると、ほぼ300 nm から 1000 nm位までの範囲ですので、可視光の波長範囲(400nm - 700 nm)に比べて非常に広くなっている事がわかります。

フルスペクトルカメラと赤外線写真専用カメラ:カメラのセンサーの前についている赤外線遮断フィルターを取り除いて赤外線写真撮影用カメラにする方法は、上に記したような二つの方法があって、それぞれ、長所短所があります。フルスペクトルカメラの長所は、なんと言っても、レンズの前に装着するフィルターを色々選べる事で、紫外線から赤外線までの色々な波長の光で写真が撮れる事です。赤外線専用カメラの場合はセンサー前に装着したフィルターで決まる波長の光による撮影しかできません。ですから、カメラの改造に当たってはどのような波長の光で写真を撮りたいかを良く考えて、センサーの前に取り付けるフィルターを選ばなければなりません。これに対して、赤外線専用カメラの魅力は撮影のための操作がフルスペクトルカメラに比べて簡単である事でしょう。デジタル一眼レフカメラをフルスペクトルカメラに変換した場合の問題の一つは、「可視光遮断赤外線透過フィルター」をレンズの前に装着したときに光学ファインダーを通して被写体を見ることができないことです。赤外線専用カメラの場合、レンズの前に可視光遮断フィルターをつける必要はありませんから、光学ファインダーを通して構図を決める事は可能です。もっとも、最近では、ミラーレス一眼カメラや、一眼レフであってもイメージセンサーを通ってくる像が見られるライブビュー機能がついたカメラが多くなってきましたから、これは余り問題にならないかもしれません。

改造カメラの経験:そういう訳で、改造カメラとしては、まず最初に、私は、Olympus E-620 をフルスペクトル化したカメラ(E-620 fs)を使うことにしました。E-620 はライブビュー機能を備えているのでフルスペクトル化して、レンズの前面に可視光遮断フィルターを装着しても液晶上に被写体を見る事ができます。ライブビューはセンサーで受けた光の信号を電気信号にしてから目で見るからです。また、イメージセンサーに写った像でオートフォーカスを働かせることもできる(イメージャーAF)のでライブビューモードでAFが使えます。もっとも、これができるのはZUIKOの純正レンズの中でも一部に限られるとされています。私が常用しているズームレンズのZUIKO DIGITAL 18-180 mm F3.5-6.3 はイメージャAF が使用可能なレンズのリストには入っていません。しかし、幸いなことに、ライブビューモード使用中であっても拡大表示モードにするとイメージャAF が使えるようになります。本来、拡大表示モードはマニュアルフォーカスのための機能ですが、このモードでAF が使用可能なので一応問題はありません。また、フルスペクトルと言っても、可視光遮断フィルターをレンズの前につけるとライブビュー画面はかなり暗くなるので、ライブビュー・ブーストをオンにして明るい画面にしておく事が適当です。もう一つ、赤外線写真の撮影を行う場合に注意しておく事は露光量が自動的にはわからない事です。一般に、フルスペクトルカメラに可視光遮断フィルターを装着すると、カメラの露出計は実際よりも暗いと感じます。このため、シャッター速度を自動にして撮影すると露出過多の写真が撮れてしまいます。今までの経験では、状況に応じて、-1 ~ -4 位の露出補正を行う事が必要です。


つぎに改造したカメラは、Olympus OM-D E-M5です。これは、ミラーレス一眼カメラであるのでファインダーは光学映像でなく電子映像なのでフルスペクトル化して可視光遮断・赤外線透過フィルターをレンズの前につけても全く問題ありません。E-620 のライブビューはこのカメラの主要な機能ではなかったためか長時間連続使用すると熱を持つなどの問題点がありましたが、ミラーレスカメラでは全てが初めから電子化されているので一眼レフで見られたような問題点はありません。もう一つ、E-M5 で良いことは、眼をEVF に当てて撮影できることです。赤外線像は可視光像に比べて暗いので明るいところでは液晶スクリーンを見ながら撮影しにくいということがありましたがEVFならば極めて快適に行えます。このように、E-M5 fsによる赤外線写真撮影は、E-620 fs の場合と違って、ほとんど可視光写真の撮影と同じように実行することができます。


その後改造した Panasonic Lumix DMC-TZ30はコンパクトカメラです。フィルターを装着するためのネジはありません。カメラの電源を切るとレンズはカメラの本体内に入り込みますが、その際、レンズの前に蓋が出てきたりしないので、レンズの前に「49 mm to 52 mm」のステップアップリングを接着剤で貼り付けて、直径52 mmの赤外線透過フィルターを装着できるようにしてあります。他の改造カメラと同様に使用可能です。一般に、コンパクトカメラの改造に際してはこの点に注意する必要があります。このカメラも、E-M5同様に赤外線写真撮影を快適に行うことができます。液晶スクリーンを見ながら撮影するということも一眼カメラの場合と違って問題になりません。コンパクトカメラはもともと液晶スクリーンを見ながら撮影するように作ってあるためかもしれません。

フィルター:赤外線写真の撮影のためのフィルターとしては、IR76 を主として使っています。このほかに、可視光も少し通すSC70, SC66 も用意して使い分けています。これらの波長領域のフィルターはフィルムカメラによる赤外線撮影で活躍したものです。


ところで、フィルターをつけずにフルスペクトルカメラで写真を撮ると、私たちが日頃見ている可視光の世界とほぼ同じ光景が見られますが、かなり色合いの異なった面白い写真が撮影できます。これはこれで良いのですが、普通の可視光の写真を撮影したい時には「可視光透過・紫外線赤外線遮断フィルター」をレンズの前面に装着する必要があります。通常のカメラに装着して使うためのこのような目的のフィルターは現在数種類(Marumi uv-ir cut filter, B&W 486 uv-ir cut filter, Maxmax X-NiteCC1, CC2 等)市販されています。いずれも、光の反射と干渉を利用して不要な波長の光を消すようにした膜を極めて多数重ねて作ったものです。このうち、Marumi のフィルター以外については透過率の波長依存性のグラフ等の性能データもインターネット上に公開されていて簡単に見ることができます。これによると、透過領域と遮断領域がかなりシャープに分離していることがわかります。定量的な測定はしておりませんが、Marumi のフィルターとB&W のフィルターでほぼ同様な撮影結果が得られる事を確認いたしました。いずれも、オートホワイトバランスではフルスペクトル化していないカメラの写真に比べると少し赤っぽくなりますが、ホワイトバランスフィルターを装着してカメラのワンタッチWBセッティング機能を使うことで自然な色を再現できる範囲内です。

カメラの改造:このようにセンサーの前につけてある赤外線遮断フィルターを交換して、フルスペクトルカメラにしたり赤外線写真専用カメラに改造することは必ずしも難しいことではなく、インターネット上に、改造方法を解説したサイトを多数見つけることが出来ます。また、参考文献の項に記したBushの本(Digital Infrared Pro Secrets)にもNikon Coolpix 995についての比較的詳しい説明が載っています。他にも、デジタル赤外線写真についての本でカメラ改造法についても書かれているものを見つけることもできます。もっとも、この改造作業はカメラの心臓部であるセンサー付近を改造するわけですからある程度の器用さと細心の注意が必要です。当然、メーカーの保証がなくなることは覚悟しなければなりません。センサーとフィルターの間にゴミが入ることは最も避けなければならないことの一つなので、塵や埃を排除したクリーンルームで作業を行うことが理想です。このためには、素人が自分で作業するよりも、設備を備えた経験ある業者に依頼するのが安全でしょう。


インターネットで調べた限りでは、国内にも、いくつかこのような作業をしてくれる業者があります。しかし、残念ながら、日本の国内市場が小さなためか扱っているカメラの種類やオプションも余り多くありません。国内に於けるカメラ改造の需要は主として天体写真の赤外線写真撮影用であるようです。赤外線写真撮影の愛好者が多くて大きな市場を持つ欧米には、このような作業をする業者がいくつか存在していて、インターネットによって世界中から注文を受けてカメラの改造を行っています。私が調べた限り、欧米の LDPLife PixelSpencer’S Camera & PhotoKolarivision の4社が大々的に赤外線カメラへの改造を行い、一部の機種については改造済のカメラも販売しています。デジタルカメラは常に新しい機種が開発されて発売されているので、各社とも新しい改造法を研究していますが、中には赤外線遮断フィルターを取り除くことができない機種も出てくることがあります。なお、上にも記したように、国内と欧米諸国の赤外線カメラ改造市場の規模が極端に違いますから、改造の価格も大きく違っており、現在のところ(2015年現在)、送料を含めても、多くの場合、国外発注の方が安価に改造が行えるようです。私は、今まで、上記4社のうちの2社に依頼して、Olympus E-620、Olympus OM-D E-M5、及び Panasonic Lumix DMC-TZ30 の3機種のカメラについてフルスペクトルカメラ化の改造を行い、現在、問題なく順調に使用しています。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9