Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線写真_研究室

2-3 非改造カメラのセンサー感度

赤外線写真撮影時の感度低下の測定市販されている普通のデジタルカメラは赤外線写真の撮影を前提としているわけではありませんから、赤外線撮影ではどれほど感度が低下するのかというデータをメーカーから得ることはできません。しかし、同じカメラを使って同じ被写体を可視光と赤外線で、いずれも、ほぼ「最適露出」であると考えられる条件で撮影し撮影データを比較すれば赤外線撮影ではセンサーに達する光量がどれほど低下しているかの「目安」を得ることができます。もし、センサーについているフィルター(R,G,Bフィルターと赤外線遮断フィルター)によって光の量が、総合的に見て、(1/b)に低下しているならば、普通の可視光撮影の時のb倍だけ光をあてれば可視光撮影の時と同様に「最適露出」で赤外線写真が撮れるはずです(必要露光倍率)。正確なデータにするには撮影時の赤外線光量や可視光量をきちんと計り、「最適露出」とは何かをはっきりと定義しなければなりませんが、ここでは、厳密な測定は行なわずに赤外線光量と可視光量の比はすべての測定を通じて同じだとし、見た目にほぼ同じ程度の写真が撮影されるという条件で測定しています。実用的におおまかな目安を得たいためです。あくまでも、目安であるということに注意してください。

測定結果 私が、赤外線写真撮影に使っている非改造のカメラである、Olympusの TG-2、 E-510, E-300、Camedia 5060W、 mu Digital 800 および Panasonic LUMIX DMC-GH1 の6種類について赤外線写真撮影時の必要露光倍率を測定した結果を第2−6図に示します。必要露光倍率の測定・解析方法は次のようにまとめることができます。

1)倍率測定をするカメラを用意する。

2)用意したカメラを使って、同じ被写体を同時刻に、赤外線と可視光で撮影する。

3)上の撮影を5組行う。

4)撮影した5組10枚の写真について、ISO値、F値、シャッター速度を記録する。

5)このようにして得られたデータを上にある公式に代入して必要露光倍率bを計算する。

6)5個のbの値の中から最大値と最小値を除いた3個について平均をとる。


このようにして得られた必要露光倍率の概略値は、数値が大きい方から順に第2−1表のようになっています。なお、これらのカメラがいつ発売になったかについても付記してあります

第2−6図 必要露光倍率


6種類のデジタルカメラを使って、それぞれ、5組(可視光写真と赤外線写真)づつの写真を撮影して上記の式により必要露光倍率を計算し、最大値と最小値を除いた3つのデータについてカメラ毎に平均したグラフです。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9

ここでは、非改造カメラの赤外線感度について検討することにします。カメラによっては赤外線遮断フィルターを取り除かなくともそのまま十分に赤外線写真撮影に使えるカメラがあるからです。

測定条件非改造カメラを用いて赤外線写真撮影を行う時、そのカメラの感度が、可視光で撮影する時の(1/b)になるものと仮定して、そのbの値を実験的に求めるのがここでの目的です。そのために、同じ被写体を同じ場所でほぼ同じ時刻に、可視光と赤外線で撮影して、それぞれの撮影におけるF値、シャッター速度T、ISO値を記録しておいて、後に示す計算式に従って、赤外線遮断フィルターの実効的減衰倍率すなわち必要露光倍率bを求めます。なお、厳密なことを言えば、ここで、赤外線遮断フィルターを通過した光量が、可視光写真撮影と赤外線写真撮影の時に同じになっている条件のもとで比較する必要がありますが、このような測定を行うことは簡単ではないので、撮影された2枚の写真が(見た目に)ともに「適正露出」であると判断されることをもってこの条件が満たされたものとしました。この判断には主観的要素が入るために定量的に精度の高い数値が得られる保証はありません。得られた数値はあくまでも「目安」であることに注意してください。また、結果の精度をなるべく高めるために、それぞれのカメラについてこの測定を5組行いました。

データ解析次に示す式に測定値を入れて必要露光倍率bを求めます。

     

この式において、F(F値)、T sec(シャッター速度)、I(ISO値)で、添え字v(可視光)およびir(赤外線)を付けてあります。この式の導出方法は注釈3に示してあります。

 

第2−7図 必要露光倍率測定に用いた写真の例(可視光)

 佐賀城本丸歴史館庭園

 Olympus mu Digital 800

 (F=23.5, T=1/640, I=64)  

第2−8図 必要露光倍率測定に用いた写真の例(赤外線)

 佐賀城本丸歴史館庭園

 Olympus mu Digital 800

 (F=2.8, T=1/2, I=125)  

言うまでもなく、倍率bが小さいカメラ程赤外線感度が高いということです。測定に用いた30組の写真のうち1組を下に例示してあります(第2−7、8図)。上にも書いた通り、必ずしも厳密な条件設定のもとで行なった測定ではありません。特に、シャッター速度や絞り値は最適画像が得られるような条件の値でなければなりませんが、最適画像が得られるような条件を定義してきちんと設定するのは困難ですから、だいたいよさそうな写真が撮れるという条件で撮影しました。したがって、測定されたF,Tの値には、当然、ある程度大きな誤差が含まれています。しかし、各デジタルカメラについてbの値は、カメラ相互の間で、かなり大幅に違っていますから、E-510, C5060W, mu800, E-300, GH1, TG2についてbの値は、それぞれ、おおむね10000, 2800, 870, 420,350, 150程度であると結論するのは妥当であると思われます。したがって、総合的な赤外線感度について言えば、C5060WはE-510に比べて3〜4倍程度感度が高く、mu800はC5060Wの3〜4倍程度感度が高く、E-300はmu800に比べて2倍程度赤外線感度が高いと言っても差し支えないでしょう。また、たとえば、mu800で赤外線写真を撮るときには、可視光の場合の1000倍程度の露光が必要なのですから、もしISO100で1/250秒の露光で可視光写真を撮っているならば同じf値でISO400に設定すれば同じ被写体は1秒の露光で撮影できることになります。手持ち撮影は困難ですが、かなり楽に赤外線写真が撮れるといってよいでしょう。上にも書いたように、bは入射赤外線の強さに依存しますから、この数値自体にあまり意味はありません。あくまでも、それぞれのデジタルカメラの赤外線感度の違いを比較する目安と考えてください。


私が最初に赤外線写真を撮影始めたのはE-510です。一眼レフで撮影したかったからですが、可視光遮断フィルターを取り付けると一眼レフのファインダーからは被写体を見ることが出来ません。そこで、ライブビューファインダーの付いているE-510を試みたのですがきわめて感度が悪いという問題に直面してしまいました。ライブビューファインダーがついていないので最後まで使用を見合わせていたE-300が、実は、コンパクトカメラよりも赤外線感度が高いというのは意外なことでした。特に嬉しいのは、赤外線感度が高い一眼レフが見つかったので赤外線レンズレス写真も可能になったことです。


なお、その後は E-510, C5060W, mu800, E-300 を非改造カメラとして使う一方、センサー前にある赤外線遮断フィルターを除去した改造カメラ3種(Olympus E-620, Olympus OM-D E-M5, Panasonic Lumix DMC-TZ30)での赤外線写真撮影を中心に行ってきました。Panasonic Lumix GH1の赤外線感度が比較的高いことは前から分かっていましたが、最近、Olympus Stylus TG2 とともに感度の測定したところ、上に示すように、2つのカメラとも高い赤外線感度を示すことがわかりました。特に、TG2は極めて高い赤外線感度を持っていることが第2−1表からも明らかです。

第2−1表 非改造カメラの必要露光倍率概略