Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線写真_研究室

2-5 撮影機材の総合的波長依存性

撮影機材の波長依存性:ところで、実際に興味があるのは、フィルターとレンズを通ってきた光がセンサーでとらえられるとどのような波長依存性を示すかということですから、フィルター・レンズ・センサーを組み合わせた撮影機材の総合的な波長依存性がわかればよいということになります。これは、プリズムや回折格子等でスペクトルに分けられた光を撮影すればわかります。そこで、グレーティング・シートを用いて簡易分光器を作成してフィルター、レンズ、センサーのいろいろな組み合わせについて観測される光の波長の範囲を調べてみました。用いた簡易分光器については、注釈4にまとめてあります。なお、下のグラフを見ると一見定量的な結果が得られておりますが、厳密な条件設定のもとでの結果ではありませんから、記録される光の波長範囲をおおざっぱに与えるだけのデータであることに注意してください。晴れた日の屋外での測定ですから、光源の光のスペクトル分布は太陽光のスペクトル分布からおおむね推定できますが、定量的議論をするには厳密に測定することが必要です。また、センサーで受光した後で電子回路による処理が行われますので、得られたデータは電子回路による処理過程における変化も含んだデータになっています。

フルスペクトルカメラE-620fsを使った総合的波長依存性の測定:作成した簡易分光器を使って、赤外線写真撮影に主として使用しているカメラの一つであるフルスペクトル化カメラのオリンパスE-620fs にZuiko Digital ED 18-180 F3.5-6.3のレンズを装着していくつかのフィルターを付け替えてフィルターの分光特性を測定しました。使用したフィルターは、marumiのIR_UV_cutフィルター、Fujifilmのシートフィルター(IR76, SC70, SC66)です。 marumiのIR_UV_cutフィルターは、フルスペクトルカメラE-620fsを用いて可視光写真を撮影するときに赤外線、紫外線の影響を除くために使用しているフィルターで、これを用いることでフルスペクトルカメラE-620fsを「普通の」E-620カメラとして使うことができます。また、注釈4に書いてあるように用いた簡易分光器の校正はNECの3波長型電灯色蛍光灯(FCL40EX-L/38-X)を用いて行いました。下の第2−9図は、それぞれのフィルターを付けて撮影したときのスペクトルの図です。

(a)


(b)


(c)


(d)


(e)


(f)

第2−9図 スペクトル図

(a)は波長校正のために撮影した蛍光灯のスペクトルで、(b-f) は全て太陽光のスペクトルです。(b)はフィルター無し、(c)は可視光撮影のために用いるmarumi IR_UV_cutフィルター、(d-f)は、SC66、SC70、IR76フィルターを装着して撮影したスペクトル図です。

言うまでもなく、赤外線および紫外線には人間に認識できる「色」はありませんが、デジタルカメラのセンサーはこれらの光を感じ取りますから、R、G、Bチャンネルに記録された光の信号を混ぜ合わせて何らかの色が表現されます。上の図では赤いスペクトルの右側のオレンジ色あるいは茶色の部分は赤外線を表しており、紺色の部分から左の濃紺の部分にかけては紫外線を表しています。これらの部分は分光器出力を直接目で見ても見えません。(b)と(c)を比較すると、IR_UV_cutフィルターによって赤外線が遮断されていることがはっきりとわかります。また、SC66、SC70、IR76フィルターの効果の違いもはっきりとわかります。しかし、この図では感度のある波長範囲は必ずしも明らかではないので撮影された写真のグレイスケールの明るさを imageJ を使って測定しました。そのグラフを下に示します。横軸はnm(ナノメートル)で表した波長で、縦軸は明るさを表しています。ただし、分光器に入ってくる光の強さについて測定していませんので、数値の大きさに意味はありませんから、フィルターごとに最大の明るさで規格化、あるいは、フィルターを使わなかったときの最大の明るさで規格化してあります。

第2−10図 IR_UV_cutフィルターの効果

赤はIR_UV_cutフィルターを付けなかった場合で、青は付けた場合を表しています。紫外線の部分はあまりフィルターの効果が見られませんが、波長が700-800 nmの赤外線については効果がはっきり出ていて、波長が700 nm以上の光は急激に少なくなっています。

第2−11図 赤外線透過可視光遮断フィルターの効果:シャープカットフィルターSC66(緑)、SC70(紫)、赤外線フィルターIR76(青)について、露出量の補正を加えて、撮影された明るさを示してあります。フィルター無しの場合の最大値が1になるように規格化してあります。

第2−12図  可視光遮断赤外線透過フィルターの効果:上の第2−11図と同じデータを使ったグラフですが、それぞれのフィルターの場合の最大値が1になるように規格化してあります。実際の撮影にあたっては、あるフィルターを装着したときに波長によって明るさがどのように変るかが重要ですから、第2−11図よりもこのグラフの方がわかりやすいと思われます。

上のグラフからまずわかることは、波長830 nm程度のところで急速に明るさが低下して、これより長い波長の光は観測されていないことです。残念ながら、E-620のセンサー感度の波長依存性に関するデータを見つけることができませんでしたが、他の公開されているセンサーのデータを見る限り、CCDでもCMOSでも波長1000 nm付近まで緩やかに感度が落ちていくのが普通ですからやや意外な結果であると言えます。一方、波長が400 nmに満たない場合でもかなりの明るさがある理由はよくわかりません。

E-620 はlive-MOS センサーと言われるセンサーが使われていますが、上にも書いたようにE-620 に使われているこのセンサーの波長依存性等の情報は見つけることができませんでした。公開されている他のセンサーの情報から類推すると、赤外線領域でR, G, B 各チャンネルに入ってくる光量は同じように減少していますが、波長700 nm程度より可視光側では各チャンネルの受ける光量は急速に差が出てきます。このために、擬似カラー赤外線写真はフィルターをIR76 からSC70, SC66 に変えていくに従って変化に富んだ写真になっていくのだと考えられます。参考のために、公開されている10メガピクセルのLive MOS センサーのデータとコダック社のMOS センサーKAC-00401 センサーのデータをグラフフにして示します。前者はE-620のセンサーと本質的に同じ物と想像されますが赤外線遮断フィルターの効果を含んでいると考えられます。また、後者はE-620のセンサーとは別物で、赤外線遮断フィルターの効果を含んでいません。

第2−13図 10メガピクセルLiveMOSセンサーの感度の波長依存性:赤外線遮断フィルター、Bayer フィルター、センサー全てを組み合わせた総合性能。

第2−14図 KAC-00401センサーそのものの感度の波長依存性:赤外線遮断フィルターは含まない。赤外線領域から波長が短くなるにつれて、各チャンネルの感度の差が大きくなっている様子がわかります。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9

赤外線写真や紫外線写真を撮影するときには、フィルターやレンズの透過率およびデジタル・カメラのセンサーの感度が光の波長にどのように依存するかということが重要です。このうち、フィルターの透過率は、メーカーのサイトにデータが公開されていることが多いのですが、レンズの透過率やセンサーの感度に関しては公開されていることは稀で波長依存性のデータを見つけることは困難です。

以上の測定から、フィルター及び赤外線写真撮影用カメラの総合的波長依存性の定性的性質は十分に理解されました。しかし、測定に使った入射光の波長分布や校正光源の精度などは十分正確ではないので、この結果はあくまでも定性的な傾向を表すものと理解するのが適当です。