Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線写真_研究室

赤外線写真ー注釈4

R-4 簡易分光器の製作

赤外線写真や紫外線写真を撮影していると、実際に記録されている像は本当に赤外線や紫外線による像であるか、また、フィルター、レンズ、センサーはどのような波長範囲の光を透過して記録しているのかということが気になります。そこで、紫外線から赤外線に至る全ての波長の光を入射して、どの範囲の光が記録されるのかを調べることにしました。


ここで必要な条件は、入射光として広い波長範囲の光が用意できることと、その光がどのような波長であるか測定できるかということです。晴天の日に太陽光のもとで白い面から反射してきた光を用いることによって第一の条件は満たされると考えられます。この光を分光器を通した後に撮影すればスペクトルの画面上の位置を測定することで 第二の条件は満たされます。そこで、グレーティング・シートを用いて簡易分光器を作ることにしました。作り方と使い方について以下に記します。

分光器の核になるのは、いろいろな波長の光が混ざった入射光を波長に応じて分解する部分で、ここでは、光の回折現象を用いることにしました。もちろん、プリズムのように光の波長によってガラスの屈折率が異なることを利用してスペクトル図を描くこともできます。回折現象を利用するために、ホログラフィーを使って透明シートに1マイクロメートル程度の間隔の平行線を描いた回折格子(グレーティング・シート)を用いました。この時、グレーティング・シートを透過する光を使うことも反射する光を使うこともできますが、今回は透過する光を使うことにしました。2本の平行線の中心間の長さを格子定数(d) と呼びますが、今回使用した回折格子の格子定数は2マイクロメートルです。このような回折格子の代わりにCDを切り取って用いることも可能です。CDには間隔1.6 マイクロメートルで溝がきってありますから、これを回折格子として使います。ただし、CDの溝は平行直線群ではなく同心円群であるので高精度を要するときには使えません。しかし、ぺらぺらのシートとは違い固いために工作しやすいという利点もあります。また、CDを透過型分光器に使用する場合はラベルをはがすことが必要です。

通常、このような簡易分光器を作るときの目的は入射光のスペクトル分布を確認することですが、今回の目的は、むしろ、分光器の後ろに付けたカメラの性質を調べることですので、カメラとの脱着を容易にすること等に気を使いました。後にも記すように、撮影されたスペクトル図上で波長を確定するために蛍光灯の可視光域のスペクトルを利用しました。このため、可視光遮断フィルターについて調べるときにはフィルターを分光器の前面に置くことによって、可視光を使った校正結果が変化しないようにしてあります。また、この分光測定の目的は輝線や暗線を精度よく求めることではなく、透過する波長範囲をおおざっぱに知ることですから分解能についてはあまり気を使っておりません。


分光器の構造は、最前面にスリット、次に回折格子を置いて回折光をカメラに導くようになっており、これは第R4−1、2図を見ればほとんど説明の必要はないと思います。光の経路は、雨樋用の塩化ビニルパイプを使ってあります。ちょうど、外径42 mmと45 mmのパイプ(別メーカー)が見つかったので、細いパイプを太いパイプに差し込むことで結合が容易にできます。また、1次の回折光を観測するために斜め方向から撮影する必要がありますが、これは外径45 mmのパイプを斜めに切断して瞬間接着剤で接合して作ってあります。


格子定数
のグレーティング・シートに波長
の光が垂直に入射した場合、
次の回折光は入射光の進行方向からの角度
の方向に出てくるとすれば、これらの量の間には 
 の関係があります。従って、
であるとすれば、
となり、進行方向から16度ずれた方向に回折光が観測されます。作成したパイプの角度は19度になってしまいましたが、この程度の誤差は問題ありません。もちろん、観測されたスペクトルの波長を計算だけで求める場合には工作精度を高くする必要があります。
 
R4−1図 スリット部(
)、回折格子付きパイプ(
)、回折光用パイプ(
)、カメラ接続部(
)に分解した簡易分光器。
 

R4−2図 オリンパスE-620に取り付けた簡易分光器。Zuiko Digital ED 18-180 F3.5-6.3にはフィルター接続ねじ(直径62 mm)を使って固定してある。

この簡易分光器を用いて蛍光灯(NECの3波長型電灯色蛍光灯:FCL40EX-L/38-X)の光を分光した写真が第3(a)です。第3図(b)には、比較のために、太陽光のもとで得られたスペクトルの図を示してあります。太陽の光の分布は滑らかに変化しているのに対して蛍光灯のスペクトル分布は変化が激しいことが見られます。このことをより定量的に見るために、米国のNIHで開発された画像処理ソフトウエア imageJ PlotProfileという機能を用いてこの写真を解析すると横軸方向の明るさの分布が数値的に得られます。このようにして得た結果が第4図に示してあります。

ここで注意しなければいけないのは、 imageJ によって得られた解析結果の横軸は波長ではなくて画素(pixel)の番号になっていることです。波長による光の透過の違いを見ることが目的ですから横軸は波長でないと困ります。幸いなことに、太陽光と違い蛍光灯の光ははっきりした強い光のピークがいくつか存在しておりそれぞれのピークに対応する波長が推定できる(第4図)ので、このことを使って画素番号(p)と波長(w)の関係式を作ることができます。大きなピークの波長は左から順に、436nm、 486nm、 546nm、 588nm、 611nm であると推定されます。これより、(波長、画素番号)=(436, 1839)、 (486, 2024)、 (546, 2207)、 (588, 2359)、 (611, 2438)の関係が求められるので、最小自乗法によって 
,
,
となります。この関係式と推定データを図示したものが第R4−5図です。測定データが全て直線の極めて近くにあることから推定が妥当であることが裏付けられます。また、この関係式を使って第R4−4図の横軸を波長にしたグラフが第R4−6図です。
 

R4−3図 簡易分光器を使って撮影されたスペクトル図。(a) 蛍光灯の光のスペクトル図 (b) 太陽光のスペクトル図。

R4−4図 蛍光灯のスペクトル(第R4−3図(a))の明るさを、imageJを用いて解析したグラフ。横軸は左端から数えた画素数。数字は推定される各ピークの波長。

R4−5図 蛍光灯の光のスペクトルから求めた波長と画素番号の関係。は推定されたピークの波長。

R4−6図 蛍光灯のスペクトル。第5図の関係を用いて横軸を波長にしてあります。

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