Atelier Bonryu

infrared photography

 
 
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赤外線写真_研究室

赤外線写真ー注釈2

R-2 Robert William Wood

Woodは天才的な頭脳を持っていろいろな課題に取り組んだだけでなく、冗談が好きでトムソーヤーやハックルベリーフィンと同じように、時には(度が過ぎていると言えるほどの)悪ふざけも行った愉快な米国人らしい研究者だったようです。研究面でも、子供のままの好奇心を忘れずにあらゆる科学的技術的問題に首を突っ込んで仕事を進めました。これらのことは、SeabrookによるWoodの伝記( William Seabrook, Doctor Wood -Modern Wizard of the Laboratory- (Harcourt, Brace and Company,N.Y.,1941))の題名そのままとも言えます。この本は、UC Berkley の物理学のあるコースで「Physics (and not-quite-physics) bed-time reading」という分類の推薦図書になっているのを見かけました。飽くことなき好奇心と実行力は研究者にとってとても重要で望ましい資質であるからです。


Wood の興味の対象は、例えば、音波による写真、紫外線放射の性質、カラー写真、分子物理、高精度回折格子、蛍光、科学捜査などで、それぞれの課題に関して大きな成果を上げています。中でも、19世紀末に発明されたゾーンプレートを使って写真撮影したこと、赤外線写真を撮影してWood’s effectに名を残したこと、紫外線撮影を行うときに必要な可視光遮断・紫外線透過フィルターに使うWood glassを発明したこと、太陽などの明るく大きくて速く動く天体を撮影する上で有用なピンホールミラーを発明したことなどは、すべて、本ホームページの内容と密接な関係があります。主要な研究対象であった光学に関して1905年にPhysical Optics の初版を出版して、その後2度改訂版を出していますが、これは没後も米国光学会によって復刻される程の名著です。さらに、Woodは、現在も入手可能な2編のサイエンスフィクションや他の一般書を書くなどしています。


本ページの主題である赤外線写真に関して撮影した写真はいろいろなものが残っていますが、それらの中から2枚を第R2−2、3図に示します。第R2−2図は1909年に撮影された赤外線写真でこの撮影用に作成されたフィルターを使って、波長が 690 - 740 nm の赤外線による写真です。雪が降ったように白く輝く木の葉や真っ黒な空などの赤外線写真の特徴がよく出ていることが強調されています(Physical Optics, 第3版)。一方、第R2−3図は1911年の夏にシシリーにおいて撮影された写真で、世界最初の赤外線風景写真であるとされています(Doctor Wood, by W. Seabrook)。

Robert William Wood(1868 - 1955)(第R2−1図)は米国の物理学者で、物理光学の分野でいろいろな仕事をした偉大な研究者です。Woodの主要な研究テーマは分光学で20世紀前半には原子物理学の数多くの課題を解決しました。

R2−1図 Robert William Wood (1868 - 1955)

R2−4図 第2回ソルベー会議出席者集合写真。Woodは、前列右から3人目。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_3_link_0shapeimage_3_link_1shapeimage_3_link_2shapeimage_3_link_3shapeimage_3_link_4shapeimage_3_link_5shapeimage_3_link_6shapeimage_3_link_7shapeimage_3_link_8shapeimage_3_link_9

Woodは 1935年にはアメリカ物理学会会長に就任していますが、(今では知っている人も少なくなりましたが)一般には「N線騒動を収束させた研究者」として有名です(1904)。「N線騒動」はX線や放射性元素の発見が相次いだ物理学新時代の夜明けに起こった「事件」で、最近の「Stap細胞騒動」とか前世紀末の「常温核融合騒動」のような「科学界の事件」を思い浮かべてしまいます。時代背景や研究分野あるいは諸々の経緯なども大きく違いますから一概には比較はできませんが、Woodはいかにも「研究室の魔術師(Wizard of the Laboratory)」らしいやり方でN線騒動を解決に導き、科学史に名を残しています。


このように、Woodは現在の私たちの身の回りのいろいろなことに密接な関係のある仕事をした研究者ですが、日本ではあまり知られていないようです。


R2−4図は、1913年に開かれた第2回ソルベー会議の出席者の写真で、前列右から3人目がWoodです。ソルベー会議は招待者だけで開かれる物理学(のちに化学も)の国際会議でその時々の重要な課題が討論されてきました。第1回は1911年に「放射理論と量子」という主題で開かれ、第2回ソルベー会議の主題は「物質の構造」でした。出席者の写真を見ると、物理学新時代を彩る輝かしい業績を上げた研究者たちを数多く見いだすことができます。

R2−2図 R.W. Woodによる赤外線写真(1909)

Wood効果と黒い空(PhysicalOptics,第3版)

R2−3図 R.W. Woodによる赤外線写真(1911)

シシリーの風景(Doctor Wood, by W.Seabrook)