Atelier Bonryu

ultraviolet photography

 
 

紫外線写真_研究室

紫外線写真撮影の実際:フィルターとレンズ

紫外線写真撮影のためのフィルター:紫外線写真撮影のためのフィルターは、通常、写真店の店頭に並べられていることは少ない(普通「紫外線フィルター」というと「紫外線遮断フィルター」を指していて非常に沢山の種類が出回っていますがこれは全く逆の働きをするフィルターです)と思いますが、インターネットで検索して注文すれば容易に入手できます。紫外線透過フィルターと一口に言っても透過する波長の範囲や透過率は色々あります。しかし、通常市販されているデジタルカメラで紫外線写真の撮影をすることを考える場合には、波長が300 - 400 nmの範囲の近紫外線を使って写真を撮ることになりますから、フィルターもこの波長領域で透過率が高くなっていれば良い訳です。この際注意しなければならないことは、紫外線を透過するバンドパスフィルターは可視光線領域で透過率がほとんどゼロになっても更に波長の長い赤外線領域に来ると再び透過率が上がってくるものが多いことです。このような性能の「可視光遮断紫外線透過フィルター」を使うときには、このフィルターに加えて「赤外線遮断フィルター」、あるいは、青(Blue)やシアン(Cyan)などの適当な「色補正フィルター(Color Compensating Filter)」を重ねて使用します。これらの色補正フィルターは、紫外線から青紫色(Cyan)の光線にかけての光の減衰量は比較的少なくて赤(Red)から赤外線部分にかけての光の減衰量は多くなるような特性を持ったフィルターなので、「可視光遮断紫外線透過フィルター」に重ねて使うことで赤外線領域の光の透過率を下げることができるのです。しかし、このような色補正フィルターは、もともと、紫外線写真撮影を目的にして作ったものではありませんから紫外線と赤外線の透過率は余り大きくないのが普通です。センサーの前についているようなもともと赤外線遮断を目的にしたフィルターを使う事も考えられます。例えば、Kenko DR655 とか B+W 489 があります。Kenko DR655 は「赤外線を遮断する色補正フィルター」として販売されています。これらのフィルターは何れも赤外線領域で透過率が極めて低く可視光領域になると急激に透過率が高まっていますが、紫外線領域で再び透過率が低くなっています。ただし、紫外線領域でもある程度は光を通すので紫外線撮影に使用できるのです。紫外線写真撮影用フィルターとして、より一層適切な光学材料も存在するようですが一般的ではないのでここでは省略します。なお、2009年7月23日には日本で皆既日食が観測され日食観測用眼鏡が多数発売されました。これらの日食観測用眼鏡は、可視光と赤外線の量を大幅に減らすことを主たる目的にしているのですが、紫外線もほとんど透過しないので、残念ながら、紫外線写真撮影用フィルターとしては使えません。カメラのセンサーの前についている赤外線遮断フィルターを取り除く改造をしたフルスペクトル・カメラや赤外線写真が撮影しやすいコンパクトカメラでは、紫外線写真撮影をしているつもりで赤外線写真撮影をしているというようなことがないように、特に注意が必要です。

 私は、紫外線写真撮影用に、まず、可視光遮断紫外線透過フィルター「B+W 403」とコダックの色補正フィルター「Wratten CC20Cyan」を重ねて使い始めました。「B+W 403」は、波長 300 nm - 400 nm の紫外線だけでなく700 nm以上の赤外線も透過します。紫外線の透過率は最大で60 %位(波長約360 nm)なのに対して赤外線の透過率は波長746 nmで17 % です。これに対して「CC20cyan」フィルターは紫外線を75 % 程度、赤外線を60 %程度透過しますから、二つのフィルターを重ねて使ったときの総合性能としては紫外線を45 % 程度透過して赤外線を10 % 程度透過することになります。後に記すように、このフィルターを使ってネクターガイドの紫外線写真が撮れていますから、一応紫外線写真の撮影には成功いたしましたが、赤外線の効果が大きいことが気になります。そこで,現在は、主として Hoya U-340 による撮影を行っています。

 なお、ほとんど赤外線を通さない「可視光遮断紫外線透過フィルター」も市販されています(Baader Venus II、Hoya U-340等)。資料によれば、紫外線透過率75 % に対して赤外線透過率(最大値)はわずか 0.15 % 以下(Baader Venus II)および 3 %以下(Hoya U-340)にすぎません。ただし、一般的に言って、赤外線を遮断するような紫外線透過フィルターはそうでないフィルターに比べて高価になっているようです。また、普通のガラス製のレンズでは大幅に紫外線強度が下がる為に非常にわずかでも赤外線を透過するとかなり赤外線の影響がでてきてしまいます。

 「紫外線写真撮影における課題」の所に記した問題点の解決法について考えてみます。まず、紫外線光量が少ない点については、補助光源を使うことが考えられます。また、レンズによる紫外線量の減少については専用レンズを使うことで解決できます。ただし、これらはある程度大きな投資を必要とします。特に後者は現在生産中の製品が少ないこともあってカメラ本体の数倍以上の出費が必要でアマチュアが趣味だけのために購入するのはなかなか大変です。これらと違い「可視光遮断紫外線透過フィルター」は紫外線写真撮影の必需品なので、これを入手しないと、そもそも、紫外線写真を撮ることができません。また、専用レンズ等に比べるとはるかに安価です。もっとも、赤外線写真撮影のところで記した「シート型フィルター」の仲間には適当な「可視光遮断紫外線透過フィルター」がありませんし、需要も決して多くありませんからカメラ用フィルターとしてはかなり高価な部類に属します。紫外線写真撮影のためのフィルターをなるべく安く調達するアイデアは色々出ていて、私は経験しておりませんが、(1)ブラックライトを割ってそのガラスの破片をフィルターとして使う、とか(2)バンドパスフィルター 、例えば、 fujifilm_BPB-42を紫外線透過フィルターの代用品として使う方法、等がインターネット上で紹介されています。いずれも理想的な「可視光遮断紫外線透過フィルター」とは言えませんが価格的には非常に安く入手できて紫外線写真らしきものを撮影することができます。例えば、BPB-42は可視光領域のうち380 nm - 500 nmという最も波長の短い領域の光のみを透過して波長420 nmで最大透過率54 %を持つバンドパスフィルター(帯域通過フィルター)で、見た目にはほとんど真っ黒なフィルターです。以下、標準的な「可視光遮断紫外線透過フィルター」に関して記します。

紫外線写真撮影に使うフィルターの特性

 紫外線写真撮影に使うフィルターの透過率の波長依存性を示しています。カタログ等のグラフを読み取って再構成したものですから精度はあまり高くありません。詳細は、以下の本文を参照してください。 また、私の使っている色補正フィルターCC20CはWratten(Kodak)ですがデータが得られなかったのでFujifilmの同名のフィルターをグラフに示してあります。

ロバート・ウッドと紫外線透過フィルター:赤外線写真のところで記したように、紫外線写真の父・赤外線写真の父と呼ばれているロバート・ウイリアム・ウッド(Robert William Wood, 1868 - 1955)は光学を専門とする米国の物理学者ですが、Wood’s glassと呼ばれる「可視光遮断紫外線・赤外線透過ガラス」の発明者としても有名です。米国では、光学以外にも色々なことで有名な人ですが、紫外線・赤外線写真における業績に加えてゾーンプレート写真を最初に撮影した人であるとも言われており、まさにこのホームページ(Atelier Bonryu)全体にとってなくてはならない人でもあるので、後ほど、ロバート・ウッドについて一つの項目をたてて公開する予定で、現在、資料を収集しています。

 それはともかく、ウッドは色々な原子あるいは化合物をガラスに含ませて光線の吸収について研究しましたが、1903年2月にニトロソ・ジメチル・アニリン(nitroso-dimethyl-anilin)を使った可視光遮断紫外線透過フィルターを作成して学術雑誌(Philosophical Magazine)に発表しています。ただし、最初のフィルターは青い光をかなり通す物でしたが徐々に改良が加えられました。一方、このフィルターを使った写真撮影に関しては、1910年には実験用試作乳剤を使って風景の撮影をしています。ちなみに、赤外線写真についてはフィルムの市販されるのは1930年代になってからですから、ウッドが最初の赤外線写真撮影者となります。紫外線写真の撮影については、同じ1910年に風景と月の表面の撮影を行っています。後に Wood’s glass (Wood’s filte)と呼ばれるようになるガラスは,1919年にフランス物理学会でその詳細が公表されました。これは、酸化ニッケル9%を含む BaNaSiガラスです。この頃には、関連した論文が多数でていて、紫外線の皮膚観察への応用と不可視光による秘密通信の提案がなされています。第一次世界大戦では、航空機と戦場の間で紫外線(夜間)および赤外線(昼間)を使った秘密通信に使われました。人間の皮膚の紫外線写真についてもウッドは先駆者で当時の紫外線写真も残っています。これらについての事情は、Pioneers of Invisible Radiation Photographyにまとめられています。また、Wood’ glassWood’s lampについて簡単に知るにはWikipediaが参考になります。

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紫外線写真撮影のためのレンズ:既に述べたように、レンズを通過する時の紫外線の減衰は極めて重大です。これは、カメラの通常のレンズに使われているガラスは紫外線領域の光の吸収量が極めて大きいからです。このために、紫外線を良く通す石英ガラス等の光学材料を使ったレンズが用いられます。

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