Atelier Bonryu

pinhole photography

 
 

ピンホール写真_研究室

ピンホール写真の応用 - ピンホール・ミラー(1)

太陽観測:ピンホール・カメラは入射する光の量が少なくて暗いために、実用的に使われたのは天文観測の中でも主として太陽観測です。太陽観測に使う限り、ピンホールからの光量は十分ありますが、レンズを使った観測に比べると解像力が弱いという問題点があります。ピンホールの直径と焦点距離の関係に関して最適化したピンホール望遠鏡の解像力については既に(※注4)で述べました。例えば、上記の清水一郎他「太陽黒点の観測」に記載されている黒点観測の例では焦点距離2 m、ピンホール直径1.8 mmのピンホール望遠鏡では黒点らしきものがぼんやりと写っている程度です。この本に記述されてはいませんが、この際得られた太陽の像は直径18 mmで、相対解像度は25程度であったはずですから、太陽の直径に沿って25画素程度の写真を見ていることに相当します。ピンホール・カメラで太陽の黒点をはっきりとみるためには、どうしても焦点距離の長い望遠鏡を作ることが不可欠です。例えば、焦点距離20 mのピンホール望遠鏡ならばピンホールの最適直径は5.2 mmとなって、太陽像の直径は186 mm、相対解像度は70程度が達成されて、かなり鮮明な黒点像が得られるようになる筈です。このような望遠鏡を作る際にはいくつかの問題点があります。まず第一は、焦点距離が長くなることによって感光面に集まる光量が減ることです。これは太陽観測を考える限り比較的小さな問題かもしれませんが光の強さは距離の二乗に反比例して弱くなるので余り長い焦点距離は問題です。第二の問題は、望遠鏡が長いため太陽に向かって立てて使うことが困難であることです。これは、太陽光をミラーで反射させて水平方向の光線にすればすむことです。しかし、太陽は1分間に約2.5度の早さで移動しますから、太陽の像が感光面上で動かないように、ミラーの向きコントロールしなければなりません。例えば、20 mの焦点距離の装置を使った場合、感光面上で太陽の像は約1.5 mm/secの早さで移動します。このような太陽像の位置合わせと追尾は、ピンホール・ミラーを使うことで、比較的簡単に行うことができます。


ピンホール・ミラー(※注6)ピンホール・ミラーは平面鏡の上にピンホール板を密着させて貼り付けたもので、上から来た光がこの部分でピンホールを通り抜けるとともに鏡で反射して方向を変えて水平方向に進んで像を作るようにしたものです。この方法による黒点観測についての記事はウエブ上にいくつか見いだすことが出来ますが、例えば、Barry Malpasのウエブサイトに実際に太陽黒点を観測した記録ガ記されています。なお、このピンホール・ミラーはヤング(Matt Young)の The Pinhole Camera に紹介されているPinhead Mirror と本質的に同じものであると考えられます。Pinhead Mirrorは非常に小さな鏡がピンホールと同じ働きをすると言うものです。また、「ピンホール・ミラー」は「ピンホール望遠鏡」と違って鏡筒がありませんから投影面には目的とする被写体像の他に環境光(迷光)が沢山入ってきます。ですから、被写体としては太陽のように極端に明るいものしか対象にはできません。


 ところでヤングの論文には、このPinhead Mirrorが最近発明されたものかどうかに関する議論について記述がありますが、実は、ゾーンプレート写真や赤外線・紫外線写真の項で出てくる米国の物理学者ロバート・W・ウッドの著書「Physical Optics」第3版(1934 Macmillan, 復刻版: 1988 米国光学会)の p.272 にはピンホール・ミラーのことが既に書かれています。1905年の初版および1911年の第2版もざっと眼を通しましたが、ピンホール・ミラーに関する記述を見つけることはできませんでした。しかし、ウッドは1898年および1900年にはゾーンプレートに関する論文を発表しており写真も撮っていますから、ピンホール・ミラーについてももっと早くから知っていたことは十分あり得ます。ウッドは、レーリー(Lord Rayleigh)によって導かれたピンホールの最適直径の式(「ピンホールの設計」のところで示した式とは係数が少し異なりますが基本的に同じ式です)を紹介してピンホール・ミラーの具体例を示しています。まず、直径15 mm位のピンホールを使って、例えば、200 フィート(約60 m)離れたところから開いた窓または扉を通して適度に暗い室内に太陽を投影します。焦点距離(「焦点距離」という言い方は正しくありませんが、ここでは便宜的に、投影面までの距離をそう呼んでおきます)が200 フィートの場合、最適なピンホール直径は6 mm程度ですので、直径15 mmではかなり解像度は落ちますが光量が6倍以上になるので比較的明るいところに投影しても太陽の像が得られるわけです。もし、暗くて長い廊下の一端にある窓または扉から光が入るような構造の場所で投影される壁の近くが十分に暗くできるならば、最適直径のピンホールによる投影をすることで目覚ましい結果が得られるとしています(解像度が良いという意味だと思います)。なお、投影面から見てピンホールの形は真円に近い方が望ましいのでピンホール・ミラーに使うピンホールは楕円形にした方が良いということも指摘されています。

ピンホール・ミラーによる太陽黒点観測

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9