Atelier Bonryu

pinhole photography

 
 

ピンホール写真_研究室

ピンホール写真の歴史ー旧石器時代

アルタミラ、ラスコー,・・・洞窟画: 

 人間の長い歴史の中でピンホール写真の歴史は、いったいどこまでさかのぼれるのでしょう?

 「石器時代の人類は、既にピンホール現象を知っていた」という説があります。これは、多分、本当だと思います。なにしろ、私の経験のように、小学校に入るか入らないかの年頃の子供でさえ、ピンホール現象を観察して長いこと記憶にとどめておくような印象的な現象だからです。もっとも、その証拠を見つけて証明する事はとても大変でしょう。


 このことを証明しようとして研究を続けている人たちがいます。代表的な研究の例は、ガットン(Matt Gatton)の”Paleo-Camera”というウエブサイトで見ることができます。「美術の歴史は旧石器時代の絵画に始まる」というのは定説になっていると言ってよいと思われますが「どのような動機で、あるいは、どのような状況のもとで、旧石器時代の人類が絵を描き始めたのか」ということについては色々な説があって結論が出ていないようです。ガットンは、まず、数多くある美術の起源の理論を3種類に分類します。それは、必要性(Needs, Interpreted Purpose)、能力(Ability, Mental Capacities)、および経験(Experience, Recognition)です。「必要性」というのは、狩猟において獲物を沢山穫るとか災害等に対しての恐れを沈めるというような「目的」をさしており、「能力」というのは「芸術のための芸術」とか「人生のための芸術」とかいうように人類の脳の進化とともに出てきた「知的可能性」をさします。一方、「経験」というのは、「熊の爪」が壁に作った文様とか他の目的で細工した石の姿形のように既に目の前にある物を経験したり認識したりすることをさしています。ガットンは、これらの要因のうちどれが一番正しいと競い合うのではなくて、むしろ組み合わさって美術の起源についてのよりはっきりしたイメージを作り出すのだと考えた上で、この「経験」に関した新しいアイデアをピンホール現象に求めたのです。今では、美術の起源について膨大なデータと膨大な研究成果があってこれらと矛盾無く「ピンホール現象が重要な役割を果たした」と簡単に結論づけることはできません。Gattonは、色々な要因と協調してピンホール現象の発見も何らかの役割を果たしたのではないかと主張しているのだと思います。


 スペインのアルタミラやフランスのラスコーの洞窟画は特に有名ですが、その他にも沢山の洞窟画が世界中で発見されています。旧石器時代はおおむね250万年前から1万年前までの時期をさしますが、そのうちほぼ3.5万年前以降は後期旧石器時代と呼ばれ寒冷な気候であったと言われ、また、アルタミラやラスコーの洞窟画はこの時期に描かれたものです。ガットンは、この寒冷な気候を乗り切るために人類が用い始めた動物の皮を使ったテントや(洞窟の入り口の)カーテンに開いてしまった小さな穴から入る光によってできたピンホール画像をトレースしたのが洞窟画等の旧石器時代の絵画の始まりであろうと言う仮説をたてました。このような仮説は、多分、今までも数多くたてられたに違いありません。しかし、なにぶん文字による記録の無い時代の話ですから、当時描かれた絵画がピンホール現象の助けを借りたものだということを証明するのは容易なことではありません。ガットンは学生達を動員した野外実験を行って「旧石器時代の絵画」がピンホール現象の助けを借りて描かれたという「状況証拠」を集めてこのことを証明しようとしています。まず、テントや洞窟の中が十分に暗くて、当時の人たちが使っていたに違いない動物の皮に開いた穴によってテントや洞窟そのものが「カメラ・オブスキュラ」になってしまうことを野外実験で確かめました。次に、ガットンは、洞窟画よりも小石の上の彫刻画(engraving:“洞窟画=cave art”に対して“portable art”あるいは“plaquet”と呼ばれていて洞窟画同様沢山見つかっています)を対象にして、当時と同様な状況を作ればピンホールで投影された像をトレースすることで良く似た絵画ができることを、学生によるシミュレーション実験で示します。具体的には、このような小石に描かれた動物には頭や脚の輪郭線が多数あったり頭,胴、脚のバランスが現実の動物とは著しく違うことが多いのですが、この点に着目して、その原因は洞窟等の外を動いている動物がピンホールを通して平らでない面上に投影された像を暗い中でトレースしたためであると結論づけています。もちろん、この「状況証拠」によって「石器時代の人類がピンホール現象を知っていて、この現象を使って絵を描いていた」ということが証明される訳ではありませんが、これはなかなか面白い研究であるし、私も、「きっと旧石器時代の人類もピンホール現象を知っていたに違いない」と思います。「旧石器時代のある特定の絵画はピンホール像をトレースして描かれた」ということを示す決定的な証拠があればいいのですが、これはなかなか難しいことだと思います。後で平賀源内がカメラ・オブスキュラを用いていたと言う推理について述べるときに出てくるように、例えば、旧石器時代の昔から変わらずに存在する左右非対称の対象物があって、その対象物が鏡に映ったように左右反転して描かれているような彫刻画が見つかれば、これはピンホール現象を用いて描かれたことの有力な状況証拠になるかもしれません。なお、ガットンの説は映像史研究者のバムズ(Paul Bums)がそのウエブサイトThe History of Discovery of Cinematographyで支持していて、具体的な証拠の一つとしてラスコーの洞窟画に上下が逆に描かれている馬の絵を示しています。

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馬の洞窟画(ラスコー)

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