Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線写真_研究室

  1. IV.赤外線レンズレス写真


4-1 赤外線レンズレス写真撮影の課題

レンズレス写真(ピンホール写真ゾーンプレート写真ダブルスリット写真)も、見えない光で撮影した写真(赤外線写真紫外線写真)も、「普通の写真」と比べると独特な魅力を持った写真です。では、これらを組み合わせたらどんなことになるでしょうか?デジタルカメラで撮る「普通の写真」に比べると、レンズレス写真も見えない光で撮る写真も,いずれも市販のカメラを使う限り、センサーまで達する光の量は著しく少ないということは今まで述べたとおりです。したがって、レンズレス写真と赤外線写真や紫外線写真を組み合わせるということは明るさの点から非常に難しそうですが、最近はカメラの感度も上がってきており必ずしも不可能というわけではありません。また、レンズレス写真を簡単に撮るためには、デジタル一眼カメラを使う必要があります。普通よく言われているのは、高価なカメラほど赤外線感度が低い傾向があるということですが、必ずしもそうではありません。ここでは、センサーの前についている赤外線遮断フィルターを取り除いた改造カメラのOlympusOM-D E-M5を使って赤外線レンズレス写真の撮影を試みました。

赤外線レンズレス写真としては、かなり鮮明な画像の期待できる赤外線ゾーンプレート写真を考えますが、比較のために赤外線ピンホール写真も撮影してみました。ピンホールは作成も簡単で赤外線写真を撮る場合もフィルターをつけるだけですが、ゾーンプレートに比べて暗いという欠点があります。ゾーンプレートはピンホールより明るくて鮮明な像が撮れますが、赤外線ゾーンプレート写真を撮影するときには、次の2つの点を注意する必要があります。


フィルムの赤外線透過率:まず第一には、可視光によるゾーンプレート撮影に用いたような写真用ネガフィルムで作ったゾーンプレートが赤外線写真撮影に使えるかどうかという事です。眼で見る限り、フィルム上の不透明ゾーンは確かに真っ黒で可視光を通さないことがわかりますが、赤外線はこの不透明部分をある程度透過するものと考えられます(日食観測の時に感光済モノクロフィルムを使うと赤外線により目を痛める可能性があると言われています)。どの程度赤外線を透過するかについての定量的なデータを見つけることはできませんでした。分光器を使う第2−4節の方法(注釈4)で測定すれば良いのですが今回は省略しました。そのかわり、テレビ用リモコンからの赤外光(波長 950 nm 位)を撮影することで透過率の程度を定性的に調べました。具体的には、赤外線感度のあるコンパクトカメラ(Olympus mu Digital 800)を用いて、露光現像済みのミニコピーフィルム(マイクロフィルム用)を間に挿入した時と挿入しない時のテレビリモコンの赤外線窓を撮影しました(第4−1図)。比較のために、FujifilmのIR76フィルター、MarumiのUV-IR cut フィルターを挿入した撮影も行いました。この結果は下図に示したとおりです。フィルムを挿入しても赤外光が撮影されていますが(第4−1図(f))、フィルム無しの場合(第4−1図(b))に比べてその強さはかなり減衰している事がわかります(ミニコピーフィルムの黒い部分は赤外線に対してもかなり不透明であると見なせる)。なお、これらの写真から、UV-IR cut フィルターは可視光に対しては透明ですが赤外光に対しては不透明、IR76 フィルターは可視光に対しては不透明ですが赤外光に対しては透明である事も確認できます。これらのフィルターの性能が仕様通りであることが再確認できました。このように、ミニコピーフィルムを使って作成したゾーンプレートでも赤外線写真撮影にある程度有効に用いられる事が想像できるので、ここでの赤外線ゾーンプレート写真の撮影には、可視光用のゾーンプレートと同材質(ミニコピーフィルム)のゾーンプレートを用いることにしました。

ゾーンプレートの焦点距離:第二の問題は、ゾーンプレートの「焦点距離」の問題です。本ホームページの「ゾーンプレートの部」で説明してあるように、ピンホールと違って、ゾーンプレートには「焦点」があるので「焦点距離」があります。また、この焦点距離の長さは光の波長に強く依存するので、可視光写真の撮影に使っていたゾーンプレートをそのままの条件で使うわけにはいきません。これまで使ってきた可視光用のゾーンプレートは設計波長を550 nmに設定してあります。この波長は、可視光の領域の真ん中になるようにとってあります。これに対して赤外線の場合には波長がずっと長いので、例えば、800 nm位の波長を想定して作らなければなりません。ただし、ゾーンプレートのパターンを決めている量は、(光の波長)、(焦点距離)単独ではなくて、(光の波長)x(焦点距離)です。(光の波長)が違っても、(光の波長)x(焦点距離)が同じならば同じゾーンプレートを使うことができます。ですから、波長550 nm、焦点距離150 mm用に作成したゾーンプレートを波長800 nmで使う場合には焦点距離を150 mmではなく、103 mmにすれば、そのゾーンプレートをそのまま使うことができます。ここでは、このように波長=550 nmとして用意した焦点距離=150 mm、ゾーン数=33 のゾーンプレートを用いて、赤外線ゾーンプレート写真の撮影を行いました(第4−2図)。

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

第4−1図 各種フィルターの赤外線透過度の概略:Olympus mu Digital 800を用いてテレビのリモコンを撮影しました。(a), (b) はフィルターなし。(c) は赤外線透過フィルターIR76、(d) は紫外線・赤外線遮断フィルターMarumi UV-IR cut filter、(e), (f) はミニコピーフィルムの黒い部分。(a), (e) はリモコンの発光なし。他は全て赤外線を発光しています。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9

第4−2図 可視光での撮影のために作った(波長550 nm用)、焦点距離150 mm、ゾーン数33のゾーンプレート(左側)を、赤外線(波長800 nm)写真撮影用に使うときはゾーンプレートから撮像面までの距離を短くする必要が有ります。