Atelier Bonryu

infrared photography

 
 

赤外線は目に見えない光ですから、この光は「何色」であると言うことができません。従って、赤外線写真をどのように表現して目に見えるようにするかは問題です。最も「正直な」方法は、モノクロ写真として表現することかもしれません。モノクロ写真は、センサーに入射する光の強弱(明るさ)のみを表現していると考えられるからです。この場合特徴的なことは、赤外線が霞や霧に比較的邪魔されにくいことと、被写体の赤外線反射率の違いによって、普段目で見るのと違った世界を見ることができます。具体的には、霧がかかったような気象条件でも遠くの山が見えることや、赤外線反射率の高い葉緑素が存在する為に可視光で見た時には比較的暗い植物の葉が非常に明るく見えること等です。木々の葉が真っ白になる「Wood effect」に最初に気がついたWoodによる写真も、当然ながら、赤外線モノクロ写真です。赤外線モノクロ写真の仕上げ方は注釈6をごらんください。

赤外線写真_研究室

3-3  フォルスカラー赤外線写真の仕上げ方

このように、モノクロ赤外線写真でも、赤外線写真らしい特徴を十分に見ることができますが、赤外線の波長領域が広いことを考えれば、赤外線領域内での光の波長分布に依存する見え方の違いを表現してみたくなります。そこで、フォルスカラー赤外線写真の仕上げ方が問題になります。 フォルスカラー赤外線写真を仕上げる基本的方法として次の2つがあります。


赤外線カラーフィルム型フォルスカラーまず第一は、いわば、「赤外線カラーフィルム型フォルスカラー」と言えるもので、同じ被写体を撮った赤外線写真と可視光写真の2枚を合成する方法です。全く同時に撮影することはできませんが、急いでフィルターを付け替えればほとんど同時に撮影した写真と見ることができます。赤外線写真から1チャンネルをコピーして可視光写真の一つのチャンネルと入れ替えて作ります。一つのチャンネルが赤外線写真のデータで他の二つのチャンネルが可視光データであるという意味でフィルムによる赤外線カラー写真(注釈 R1参照)と似ていますが、チャンネル間のいろいろな組み合わせ方ができるので、フィルム写真と比べてはるかに自由度が大きくなります。また、次に示す第二の方法より色彩豊かで変化のある写真に仕上げることが可能です。ただし、同じカメラでフィルターを変えてほとんど同時に撮影するのはかなり制限となります。特に、動いているものが撮れないという大きな制限があります。透過する光の波長の下限の低い赤外線透過フィルターを使うことで、第二の方法でも、色彩豊かな偽色写真に仕上げることが可能なので、わざわざこの方法を使うことはないかもしれません。画像処理ソフトを使って、この方法で後処理を行う手順は注釈7にまとめてあります。 第3−1、2、3図はこの方法によるフォルスカラー処理を行った例です。

色相交換型フォルスカラー:第二の方法は、いわば、「色相交換型フォルスカラー」と言えるもので、 赤外線写真1枚だけを使ってフォルスカラー赤外線写真を仕上げる方法です。現在では、赤外線カラー写真のフォルスカラーといえば、ほとんど、ここに記す方法を基礎にしています。この方法はさらに細分できますが、そのうちの代表的な方法としては、RGB色空間におけるチャンネルスワッピング法」Lab色空間における階調反転法」正しくは「L*a*b*色空間」ですが煩わしいので慣例に従って「Lab色空間」と表記します)がよく使われます。最もよく使われている「RGB色空間におけるチャンネルスワッピング法」は、画像処理ソフトを使って3つのチャンネルのうち二つのチャンネルの内容を入れ替える(Channel Swapping)だけです。通常、RチャンネルとBチャンネルを入れ替えます。この操作だけで満足できる作品ができる場合もありますが、うまくいかない場合もしばしばあります。各チャンネルの画像の違いが少ないとどうしても原画像のくすんだ単調さから抜け出すことが困難です。そこで、レベル調整を行い、チャンネルごとに色相、彩度、明度を変えるなどして満足できる写真に仕上げて行かなければなりません。この方法を使って後処理を行う具体的な手順は注釈8にまとめてあります。

Lab色空間における階調反転法」は、RGB色空間の変数であるR、G、Bで表現されているカラー画像をLab色空間の変数であるL、a、bに変換してから、チャンネルスワッピング「のような」色変換を行います。ここで、「のような」と書いたのは、この変換ではチャンネルを入れ替えるのではなく、a、bという変数の符号をマイナスにするという操作(階調反転)をするからです。Lab色空間でこのような操作をすることは、実は、明るさを一定に保ったまま全ての色をその色の補色に変化させるという操作になっています。このような操作によって、「どうして私たちに受け入れやすい偽色の画像に仕上がるのか」ということはよくわかりません。具体的操作法も含めた、もう少し詳しい説明は注釈9に書いてあります。実は、「RGB色空間におけるチャンネルスワッピング法」においても、青色と赤色は補色ではありませんが、Lab色空間での補色変換と似た変換であるということができそうです。好ましい色か否かということは個人的な嗜好に関わることですが、文化・社会・時代などによってある傾向を持っていることも確かです。私の個人的な感覚からすると、厳密に補色への変換を行っている「Lab色空間における階調反転法」の方が「RGB色空間におけるチャンネルスワッピング法」よりも、容易に、受け入れやすい色彩を生み出すような気がします。「補色への変換」を簡単に、かつ、なるべく厳密に近く行うことに意味があるのかもしれません。また、これらの主要な変換に加えて詳細な補正を加えるばあいには、Lab色空間の方が2つの色の間の距離感が人間の感覚に近いので、操作する人の好みに合う偽色を構成しやすいということがあります。


第3−4、5図は、同じ赤外線写真を元に、それぞれ、「RGB色空間におけるチャンネルスワッピング法」と「Lab色空間における階調反転法」によってフォルスカラー処理を行った結果の写真です。

展示室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真
研究室 ピンホール写真 ゾーンプレート写真 ダブルスリット写真 赤外線写真 紫外線写真../atelier_bonryu_g/Pinhole_a.html../atelier_bonryu_g/Zoneplate_a.html../atelier_bonryu_g/Doubleslit_a.html../atelier_bonryu_g/IRPhoto_a.html../atelier_bonryu_g/UVPhoto_a.htmlPinhole.htmlZoneplate.htmlDoubleslit.htmlIR_Photo.htmlUV_Photo.htmlshapeimage_2_link_0shapeimage_2_link_1shapeimage_2_link_2shapeimage_2_link_3shapeimage_2_link_4shapeimage_2_link_5shapeimage_2_link_6shapeimage_2_link_7shapeimage_2_link_8shapeimage_2_link_9

第3−1図 孤木:赤外線写真

第3−3図 孤木:フォルスカラー赤外線写真写真

第3−1、2図を合成して作った赤外線フィルム型フォルスカラー

第3−2図 孤木:可視光写真

第3−4図 石の造形:RGB色空間におけるチャンネルスワッピング(RとB)によるフォルスカラー赤外線写真

第3−5図 石の造形:Lab色空間における階調反転(a --> -a, b --> -b)によるフォルスカラー赤外線写真