Atelier Bonryu

zone plate photography

 
 

ゾーンプレート写真_研究室

ゾーンプレート写真研究室 − 概要

ゾーンプレート写真:ゾーンプレート写真は、ピンホール写真と同様に、レンズを使わないで撮影する写真(レンズレス写真)です。ピンホール写真の原理は、光の「直進する」性質を使っています。簡単に言えば、「ピンホール写真談話室-概要」で説明したように、被写体表面のあらゆる点から発した光線が小さな点(ピンホール)を支点にして感光面上に被写体と相似な図形を描くのが、ピンホール写真の原理です。このために、ピンホール写真を撮る際にはピンホールの大きさはある程度小さい事が必要になります(あまり小さすぎるとかえってよくない事は既に述べたとおりです)。光の入ってくる入り口が狭いのですから、像は暗いので、写真を撮影する際も、露出時間が非常に長くなってしまうのが普通です。この問題を解決するレンズレス写真としてゾーンプレート(Zone Plate:輪帯板)が考えられます。ゾーンプレートは、弓道の的のように白(透明部分)と黒(不透明部分)のゾーン(輪帯)が同心円状に配置されたプレートです。詳細は次ページ以降の本文注釈に記してありますが、通常、写真撮影に使うゾーンプレートの大きさは直径数ミリメートル程度ですから、現実の弓道の的に比べれば、はるかに小さなものです。

 ゾーンプレート写真資料室では、ゾーンプレート写真の原理ゾーンプレート写真の撮影ゾーンプレート写真の応用等についてお話いたします。まず最初に、このページでは、これらの話題について大まかな理解ができるように概要を記します。もっと詳しく知りたいと思われる方は次のページ以降の本文をご覧ください。わかりやすくするために専門的な記述や数式はなるべく避けるようにしたのですが数式が必要な説明もあります。少し専門的かなと思われる部分は注釈として別扱いにしてあります。また、私がゾーンプレート写真を勉強する上で参考にした色々な資料は参考資料のページにまとめてあります。

ゾーンプレート写真の原理ゾーンプレート(日本語で「輪帯板」と言います)の真ん中の円の大きさは同じ焦点距離を持つピンホール(ピンホールにも焦点距離がある事は既に述べた通りです)の大きさと同じですが、周りの輪帯(ゾーン)部分の光を合わせるとピンホールの場合に比べて著しく明るい像ができます。なお、透明ゾーンの面積は皆等しくて中央の円の面積と同じです。ゾーンプレートの特徴は、この他にも色々ありますが、これらについての詳細は次ページ以降をご覧ください。


 ところで、ゾーンプレートのように大きな円形領域を通ってきた光が像を作り出す原理は、ピンホール写真のように光が直進するという事だけで説明することはできません。これを説明するには、光が波動現象であって、その波が回折と干渉という現象を起こすという事を使わなければなりません。この事の詳しい説明は次ページ以降にありますが、一言で説明するならば、ゾーンプレートを通過した光線(回折のために、もはや入ってきたときと同じ方向に進む光線だけではありません)がある点(焦点)で干渉によって強め合い、他の点では弱め合うように、ゾーンプレート上の透明部分のパターンを決めて結像作用を持たせてあるのです。このようなパターンを決めるためには、まず、対象とする光の波長とゾーンプレートの焦点距離を与えなければなりません。次に、ゾーンをいくつ描くか(ゾーン数)を決める必要があります。ゾーンは外側に行くにしたがって細くなるので工作できるかどうかという限界があります。この他に、ゾーンの数は分解能や色収差にも関係してきます。また、ゾーンのパターンは、光の波長や焦点距離に別々に依存するのでなく、(光の波長)x(焦点距離)の形で関係していますから、(光の波長)x(焦点距離)が一定ならば、ゾーンのパターンは同じになります。例えば、波長550 nm(ナノメートル:1 nm =0.000001 mm)、焦点距離300 mm用に作ったゾーンプレートは、波長660 nm、焦点距離250 mm用のゾーンプレートと全く同じです。(光の波長)x(焦点距離)の値が同じになるからです。

ゾーンプレートの作成:ピンホールに比べると、ゾーンプレートは複雑な形をしていますから、ピンホールのように金属板に錐やドリルで穴をあけて作ることはできません。特別な装置を使わずにゾーンプレートを作る方法として通常使われているのは、まず、パターン作成に必要なゾーンの半径を計算して、この数値を数十倍から数百倍に拡大して描いたゾーンプレートのパターンを紙に印刷して、これをフィルム・カメラでモノクロフィルムに撮影して、そのフィルムをゾーンプレートとして用いる方法です。撮影したフィルムをそのまま用いますから、フィルム上のゾーンプレートのパターンの大きさが必要な大きさになるように、撮影するカメラの焦点距離に合わせて撮影距離を調整しなければなりません。また、ゾーンプレートでは、中心の円が透明(正のゾーンプレート)でも不透明(負のゾーンプレート)でもかまわないのですが、ネガ・フィルムに撮影するとき階調が反転する事に気をつける必要があります。

ゾーンプレート写真の撮影:ゾーンプレートは科学技術の分野ではかなり使われていますが、(鑑賞するため等の)写真撮影のためには、まだあまり普及していません。このために、ゾーンプレート写真の特徴について十分理解されていない点や誤って理解されている点があるように思います。それは、「ゾーンプレート写真はピンホール写真に比べてもはるかにソフトな写真が撮れる」という事に関係しています。確かに、ゾーンプレートで撮影した写真は、普通、コントラストがたいへん弱くとてもソフトに見えます。しかし、一般に、ゾーンプレートで形成された画像の分解能はピンホールの場合よりも高くて、ゾーンの数を増やせば増やすほど分解能は高くできるという事を理論的に示せます。ところが、撮影されたそのままの写真からは非常にぼんやりとした印象を受けるのです。この原因としては、ゾーンプレートの色々な特徴が関係しています。大きな原因の一つは「背景光」の問題です。既に述べたようにゾーンプレートでできる画像はゾーンのところで回折した光が干渉によって感光面上に作り出されるのですが、そうはいっても、ゾーンのところで回折する光線よりはるかに多くの光線が直進します。この直進した光線が感光面上で、背景光として、いわば「かぶり」を起こすので、非常にコントラストの弱い写真ができてしまいます。なお、この背景光のうち「余り大きくない被写体そのもの」による部分は明るい被写体像のまわりに「ハロー(暈)」をかたちづくりゾーンプレート写真独特の美しさを表すものとして珍重されています。デジタルカメラを使う場合には,不要な「かぶり」を除くことは比較的簡単にできます。もっとも、これは、各ピクセルから背景光の明るさを一様に引き去るだけですから、背景光が過度に強い場合にはあまり有効ではありません。具体的には次ページ以降を参照してください。なお、「背景光」という語は、通常、「環境光」のように、対象とする被写体以外からの光を指す場合が多いようですが、ここでは、上に記したように、ゾーンプレート通過後に主焦点に収束しない光を表していることに注意してください。


 次に気をつけるべき事は、ゾーンプレートにはピンホールと違ってはっきりした焦点距離がある事です。このため、近距離の被写体については距離合わせをきちんとしてピントを合わせる事が必要になりそうです。ピンホールに比べてゾーンプレートは明るいとは言え一眼レフのファインダーをのぞきながらピント合わせをするには充分な明るさと言えませんから、あらかじめ距離を計算してゾーンプレートからイメージ・スクリーンまでの距離を決める必要があるでしょう。もっとも、「ピント合わせと被写界深度」のページで説明するように長い焦点距離や大きなゾーン数を除けばゾーンプレートはほとんどパンフォーカスであると言えます。例えば、一眼レフの標準レンズに相当するようなゾーンプレートでは無限遠にピントを合わせておけば後はピント合わせをする必要はほとんどありません。


 この他に、光の波長によって焦点距離が変わってしまう色収差の問題が重要です。上の「原理」の説明からわかるように、ゾーンプレートでは「焦点距離が光の波長に逆比例する」という非常に大きな色収差があります。さらに、色収差による「許容波長範囲」はゾーン数に逆比例する事もわかります。このために、分解能を上げようとしてゾーン数を増やすとこの許容波長範囲も急激に狭くなってしまい、色彩豊かな被写体の写真は撮れなくなってしまうという可能性が理論的に予想されます。一眼レフカメラの標準レンズ(焦点距離:50 - 100 mm程度)相当で 20 ゾーン位のごく普通のゾーンプレートでも、可視光全域をカバーしていません。しかし、比較的短い焦点距離のゾーンプレートで撮影した写真はそれほど不自然な色には見えません。この写真をRGB(赤、緑、青)のチャンネルに分解すると、鮮明に撮れているのは緑チャンネルだけであることがわかります。通常、ゾーンプレートは可視光の中心波長である波長550 nm (緑色)に合わせて設計するからです。写真に写った被写体形状は最もシャープに収束している波長550 nmの光できまり、色は全ての波長の光が重なって表されているからだと考えられます。したがって、撮影に当たっては焦点距離を決めている波長の光は画面の中で相対的にある程度強い光であることが必要です。ゾーンプレート写真は、被写体によって写真の写り具合が非常に異なりますが、これがその原因であると思われます。

ゾーンプレートの応用:レンズや反射鏡は光学的結像装置として非常に優れたものなので現在広く応用されています。これに対して、ピンホールやゾーンプレート等のレンズレス・システムは色々な制約があって、レンズや反射鏡のようには便利に使われていません。しかし、ピンホールやゾーンプレートには,二つの大きな特徴、(1)光の通るところに何も物質がないようにできる、(2)大きなものを作ってもとても軽い、があるので、これらの性質を利用して装置が作られたり、あるいは、装置を作る計画があります。まず、「光の通るところに何も物質がないようにできる」という性質は「可視光」以外の光線、即ち、波長の短い紫外線やX線、あるいは粒子線を収束させるのに実際に用いられています。これらの光線あるいは粒子線を通過・屈折させてレンズ作用を持たせるような適当な物質がないからです。もちろん、これらの用途には、上に書いたようなフィルムを使ったゾーンプレートは使えませんから微細加工をした金属板等を用いなければなりません。「大きなものを作ってもとても軽い」という性質は、人工衛星軌道に設置する宇宙望遠鏡として非常に有利な性質です。計画としては、焦点距離が数十キロメートル、センサーおよびゾーンプレートの直径が数メートル以上の宇宙望遠鏡が考えられています。同等の望遠鏡をレンズや反射鏡で作るのは重過ぎてほとんど不可能ですがゾーンプレートならば可能だからです。しかし、ゾーンプレートとセンサーは数十キロメートル離れた別の宇宙船にのせるわけですし、このように長大な宇宙空間に置かれた機器をミリメートル程度の精度で制御する必要がありますからかなり難しい技術と思われます。

 これとは別に、ゾーンプレートでは、ガラスのレンズのように「屈折」ではなく「回折」と「干渉」によって光が収束するという事実は「色収差」を積極的に利用して役立てるという応用への道を開きます。ゾーンプレートによる色収差は極めて大きい上に、通常のガラス製レンズによる色収差と波長依存性が逆になっているためにゾーンプレートとガラス製レンズを組み合わせることによって高性能の色消しレンズが実際に開発されて実用化されています。

(a)        (b)        (c)         (d)


色々なゾーンプレート

(a,b)Fresnel Zone Plate(フレネル・ゾーンプレート):白(透明ゾーン)と黒(不透明ゾーン)の2階調で作られています。(a)は中心が透明な「正のゾーンプレート」、(b)は中心の円が不透明な「負のゾーンプレート」です。

(c)Gabor Zone Plate(ガボール・ゾーンプレート):透明度が正弦波的に連続的に変化しています。(d)Photon Sieve(フォトンシーブ):ゾーンの代わりに多数の穴があいています。

ゾーンプレートの原理

 ゾーンプレートに垂直に入ってきた光線(光の波)のうち、ゾーンプレートの中心を通って直進して焦点に向かう光A、不透明ゾーンの位置から焦点に向かう光(実際は不透明ゾーンに遮られて存在しない)B、透明ゾーンから焦点に向かう光Cを示してあります。A,B,Cの順に経路が長くなっているので、焦点の位置に到達したときに波に遅れが生じています。光線Bは波長の半分(半波長)だけ遅れているので光線Aが山の時光線Bは谷になってしまい打ち消し合ってしまいます。これに対して、光線Aは一波長分遅れているため全く遅れていないのと同じ状態になって、光線Aが山の時光線Cも山になりお互いに強め合います。このように、焦点に到達するときに、光の波長の 0.5, 1.5, 2.5, 3.5,......倍だけ遅れるような光線を除く事で焦点に光を集めることができます。

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ゾーンプレートの仲間:回折と干渉を利用して光を収束させる光学素子は、ゾーンプレートの他にも色々と考えられています。また、ゾーンプレートに限っても、これまでは主として「正」のフレネル型ゾーンプレートについてだけ考えてきましたが、中心ゾーンが不透明な「負」のゾーンプレートもあるし、完全に透明なゾーンと完全に不透明なゾーンから成り立っているフレネル型ゾーンプレートに対して透明度が正弦波状に連続的に変化しているガボール型ゾーンプレートがあります。また、不透明ゾーンも透明にしてしまいその部分を通る光の位相が半波長だけずれるようにして明るくした位相型ゾーンプレートもあります。更に、ゾーンの形を円ではなく多角形にしたもの等も研究されています。一方、実用的な見地からは、フォトンシーブ(Photon Sieve)が有用な光学素子と考えられており、実際、色々な目的に使われています。簡単に言えば、フォトンシーブはゾーンプレートの透明ゾーンを多数のピンホールで置き換えて作った光学素子です。金属板等を切り取ってゾーンプレートを作ろうとしても、内側の透明ゾーンを支えるものがなければ、形を保つことができませんが、フォトンシーブならばこのような心配はありません。これは、パターンをフィルムに焼き付けてゾーンプレートを作るときには関係ありませんが、可視光以外の収束を目的にしてゾーンプレートを作るときには重要な課題となります。また、フォトンシーブならば、巨大な光学素子が作りやすい等の利点があります。ただし、いわゆる「芸術的な写真撮影」を目的としてこれらの光学素子を使ってみるという試みはごくわずかしかなされていません。このサイトでは、このような観点から、これら光学素子を用いた写真撮影について考えていきたいと思います。

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茨城県大洗町のオーシャンビュー大洗で、2015年2月16日〜3月31日まで展覧会「竹田辰興ゾーンプレート写真展」が開催されました。

展覧会場でのインタビュー動画が「いばキラテレビ」から放映されました。

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